公益財団法人

日本二分脊椎・水頭症研究振興財団

顕在性二分脊椎、脊髄髄膜瘤Overt spina bifida, spinal meningocele

 

顕在性(開放性)二分脊椎、脊髄髄膜瘤

(1)どのような病気ですか?

脊髄髄膜瘤は顕在性二分脊椎を代表する病気であり、生まれた時に背中の腰仙骨部の皮膚が丸いこぶ(瘤)のように膨らみ、皮膚の一部が欠損したところから脊髄が露出しています。丸いこぶのような形から脊髄髄膜瘤(せきずいずいまくりゅう)と呼ばれます。脊髄髄膜瘤の英語名は myelo-meningo-celeであることから、略してMMCとも呼ばれます。脊髄障害による両下肢の麻痺(対麻痺、ついまひ)や変形、排尿・排便障害、高率に合併する水頭症の症状を呈します。最近では、超音波検査で脳室拡大の所見を契機にMRI検査によってお母さんの胎内で診断がつくことが多くなっています(出生前診断、胎内診断)。

(2)どのような症状が現れるのですか?

脊髄症状は出生直後に明らかになります。脊髄のどのレベル(胸髄、腰髄、仙髄)が障害されるかによって下肢麻痺、排尿・排便障害の程度が異なります。胸髄や腰髄の高いレベルの障害であれば股関節や膝関節以下の運動が障害されます。腰髄の低いレベルや仙髄の高いレベルであれば足関節以下の動きが障害されます。仙髄の低いレベルの障害であれば、運動障害は軽度かあるいは認められず排尿・排便障害が主たる症状になります。高率に合併する水頭症のために、頭が大きくなったり(頭囲拡大)、大泉門が張る(膨隆する)症状を示します。また、不機嫌、哺乳障害、嘔吐、意識障害などの髄液圧が高い症状を示します。一方、水頭症を伴わない場合もあります。

(3)どのような検査により診断されますか?

出生前診断は、エコー検査で胎児の脳室が大きいことから水頭症を疑い、胎児MRIによって脳脊髄を詳しく検査することで脊髄髄膜瘤の診断が得られます。すべての二分脊椎が出生前に診断されるわけではなく、脳室拡大を示さない場合や脊髄の変化が少ない場合には診断がつかないこともあります。出生前に診断がなされると、小児脳神経外科医によって出生後の治療についてあらかじめ説明がなされることが一般的です。小児脳神経外科医による手術が可能な施設で出産する場合と出生後に治療のため新生児搬送される場合があります。
出生後に脊髄髄膜瘤が脊髄のどのレベルにどのような大きさで存在するか、下肢麻痺、排尿障害、神経症状を評価します。新生児科による全身評価、頭部CT、MRI(必要に応じて)、脊椎レントゲン撮影などがなされます。頭部CTスキャンは脳室拡大の程度すなわち水頭症の程度評価するために必須の検査です。呼吸の障害や哺乳の障害を有する重症例では、MRIによる脳・脊髄の評価も必要になります。新生児科の評価の結果、手術可能となれば、脳神経外科によって皮膚欠損部を閉じて髄液の漏れを防ぐ手術を行ないます。

(4)どのような治療をするのでしょうか?

出生後早期の治療は、新生児科による全身管理と、小児神経外科による脊髄髄膜瘤の修復術と水頭症の治療です。いずれも命を救うことと、脳脊髄の障害が悪化を防ぐことを目的にしています。成長の過程で、小児科、小児外科、整形外科、泌尿器科、形成外科をはじめ多くの専門科が関わります。

  • ① 脊髄髄膜瘤の修復術:
    脊髄髄膜瘤を放置すると髄液が漏れている部分から髄膜炎を起こすため、脳神経外科医によって早期(一般的に 48時間以内)に皮膚を閉じる手術を行います。皮膚の欠損部が大きい場合には形成外科と共同で手術をすることがあります。
  • ② 水頭症の治療:
    修復術を行うことによって髄液が体外への漏れるのを止めると、多くの場合髄液が脳室内に貯まるために頭囲(頭の大きさ)が徐々に拡大します。水頭症に対する治療は、一般的には脳室―腹腔シャント(髄液を皮下に通したチューブでお腹の中に導いて吸収させる方法)を行ないます。おなかの中(腹腔)というのは胃や腸が入っている大きな空間であり、胃や腸の中というわけではありません。腹腔に導かれた髄液は、胃や腸の表面と腹腔の内面で血管に吸収され、最終的に尿になって出ていきます。
    水頭症は必ず発症するわけではなく、また全例に手術が必要とも限りません。

(5)予後:障害は残りますか?

脊髄髄膜瘤に伴う障害について出生前にその程度を予想することは困難です。様々なレベルの両下肢麻痺(対麻痺)と排尿の障害(神経因性膀胱)や排便の障害が残る可能性があります。

  • ① 下肢の運動:
    大部分の患児は生存し、脊髄が障害されたレベルによってさまざまな程度の下肢麻痺があるものの、多くは歩行可能となります。麻痺の程度によっては様々な装具(短下肢装具、長下肢装具、車いす)を使用することになります。障害者スポーツを楽しんだり、パラリンピックなど活躍の場が広がっています。
  • ② 排尿と排便:
    排尿が障害されると尿が膀胱にたまって感染(膀胱炎)を起こしやすくなったり、尿が膀胱から尿管や腎臓に逆流して腎臓障害を生じたり様々な問題を生じます。そのため、尿が出にくいタイプの排尿障害では定期的にカテーテル(管)を膀胱に入れて排尿する間歇的導尿(かんけつてきどうにょう)が必要になることがあります。尿が膀胱にたまらないために自然に漏れてしまう時には導尿は必要ありません。しかし、成長とともに尿が漏れることで社会生活に支障が生じることがあります。
  • ③ 知能・学習:
    水頭症の合併率が高いものの、75%は IQ80以上であり通常学級に就学します。一方、標準レベルの知能であっても学習障害を伴うことがあり、教育面で配慮が必要な方もあります。成人の約8割は自立した日常生活を送ります。大学に進学して専門職に就く方もあります。

(6)その他に気をつけなければならないことがありますか?

  • ① キアリ2型奇形:
    脊髄髄膜瘤の患児を MRIで検査すると、小脳の一部であるアーモンドの形をした小脳扁桃という部分や第 4脳室、脳幹が脊椎管(背骨)のなかに下垂している異常を認めることがあります。このような異常をキアリ2型奇形と呼びます。それによる症状を認めないことも多いのですが、呑み込みや呼吸の障害、喘鳴や徐脈を新生児期に発症することがあります(図2)。症状が強い場合には減圧手術を行います。
    図1上段:顕在性(開放性)二分脊椎、脊髄髄膜瘤
    図2:キアリII型奇形
    左:正常脳
    中:キアリ2型奇形で小脳扁桃と第4脳室が脊椎管内に下垂していることを示す
    右:キアリ2型奇形のMRIで、下垂下小脳扁桃を示す。脊髄には脊髄空洞症を伴う。
    (水頭症・二分脊椎必携(2016)103頁から引用)
  • ② 脊髄係留症候群(せきずいけいりゅうしょうこうぐん):
    出生直後に修復術を行った部分の脊髄が周囲と癒着することを避けることは出来ません。身長が伸びるとともに癒着した部分で脊髄が引っ張られる(係留、稽留されるといいます)ために足や腰の痛み・しびれ、足の麻痺や変形、排尿障害が生じることがあります。脊髄がつなぎとめられるために生じる症状という意味で脊髄係留症候群と呼ばれます。早期に診断し、癒着した部分を剥離(はくり)して脊髄を自由にする手術(脊髄係留解除)を行います。
  • ③ ラテックスアレルギー:
    天然ゴム製品に接触することで生じるアレルギー反応です。脊髄髄膜瘤患児は新生児期から複数の手術、導尿などラッテクスを含有する製品に触れる機会が多いため、ラテックスアレルギー起こしやすいことが知られています。稀ですがショックなど重い反応が手術中に生じて生命にかかわることもあります。予防策は、ラテックス製品の使用を避けて感作されないようにすることです。

    <アレルギーポータルのサイト、一般社団法人日本アレルギー学会が運営>
    アレルギー対策 | ラテックスアレルギー

(7)葉酸を服用した方がよいのでしょうか?

2000年に厚生労働省は「神経管閉鎖障害の発症リスクを低減させるための通知」を出しました。要点は次の2点ですが、あくまで妊娠中のバランスのとれた食事や栄養・健康管理が前提になります。また、 既に神経管閉鎖障害の児の出産既往歴のある母親については、過度の不安を招かないよう、その発症に葉酸の摂取が寄与した可能性は必ずしも高くないことなどについて説明することを求めています。

  • <要点1>
    脊髄髄膜瘤のお子さんを妊娠・出産したことのあるお母さんが次の妊娠を計画する時には、妊娠の1か月以上前から妊娠3か月までの間、 医師の管理下での葉酸の摂取について相談して下さい。
  • <要点2>
    脊髄髄膜瘤のお子さんを妊娠したことのない妊娠可能な女性も、食品からの葉酸摂取に加えて、いわゆる栄養補助食品から1日0.4mgの葉酸を摂取すれば、神経管閉鎖障害の発症リスクが集団としてみた場合に低減することが期待できます。

    ドラッグストアーで栄養補助食品として葉酸 0.4mgを含んだ錠剤を購入することができます。
     

葉酸に関する詳しい情報

<保健医療関係者の情報提供のあり方について>抜粋

保健医療関係者は、葉酸摂取の情報提供を行うに当たり、妊娠可能な年齢の女性等の本人の判断に基づく適切な選択を可能とし、また過度の不安を招かないよう、以下の情報を提供すること。

  • ア.妊娠可能な年齢の女性に関しては、神経管閉鎖障害の発症リスクを低減させるためには、葉酸摂取が重要であるとともに、葉酸をはじめその他ビタミンなどを多く含む栄養のバランスがとれた食事が必要であること。
  • イ.妊娠を計画している女性に関しては、神経管閉鎖障害の発症リスクを低減させるために、妊娠の1か月以上前から妊娠3か月までの間、葉酸をはじめその他のビタミンなどを多く含む栄養のバランスがとれた食事が必要であること。
     なお、野菜を350g程度摂取するなど、各食品について適正な摂取量を確保すれば、1日0.4mgの葉酸の摂取が可能であるが、現状では食事由来の葉酸の利用効率が確定していないことや各個人の食生活によっては0.4mgの葉酸摂取が困難な場合もあること、最近の米国等の報告では神経管閉鎖障害の発症リスク低減に関しては、食事からの摂取に加え0.4mgの栄養補助食品からの葉酸摂取が勧告されていること等の理由から、当面、食品からの葉酸摂取に加えて、いわゆる栄養補助食品から1日0.4mgの葉酸を摂取すれば、神経管閉鎖障害の発症リスクが集団としてみた場合に低減することが期待できる旨情報提供を行うこと。
    ただし、いわゆる栄養補助食品はその簡便性などから過剰摂取につながりやすいことも踏まえ、高用量の葉酸摂取はビタミンB12欠乏の診断を困難にするので、医師の管理下にある場合を除き、葉酸摂取量は1日当たり1mgを越えるべきではないことを必ずあわせて情報提供するとともに、いわゆる栄養補助食品を利用することが、日常の食生活のあり方に対する安易な姿勢につながらないよう周知すること。
  • ウ.神経管閉鎖障害の児の妊娠歴のある女性に関しては、神経管閉鎖障害発症のリスクが高いことから、妊娠の1か月以上前から妊娠3か月までの間、 医師の管理下での葉酸の摂取が必要であること。
  • エ.妊娠を計画している女性に関しては、妊娠中のみならず妊娠前からの適切な健康管理が重要であること。すなわち、妊娠中の母体の健康と胎児の健全な発育のため、日頃から多様な食品を摂取することにより栄養のバランスを保つなど食生活を適正にし、妊娠中の禁煙・禁酒が不可欠であること。
     

<厚生労働省の通知、2000年>

神経管閉鎖障害の発症リスク低減のための妊娠可能な年齢の女性等に対する葉酸の摂取に係る適切な情報提供の推進について 平成12年12月28日
https://www.mhlw.go.jp/www1/houdou/1212/h1228-1_18.html

(日本小児神経外科学会、日本先天異常学会、日本二分脊椎研究会、日本排尿機能学会などがその通知を支持する声明を出しています)