公益財団法人

日本二分脊椎・水頭症研究振興財団

Q & AQuestion & Answer

水頭症・二分脊椎必携(日本二分脊椎・水頭症研究振興財団、2016年版)から引用いたしました。


水頭症に関するQ & A

シャントシステムには、髄液が適正に流れるように、設定した圧を後から変化させることが可能なバルブ(圧可変式バルブ)が使われることがあります。このタイプのシャントはバルブ内に金属が入っており、強い磁力が発生する場に近づくと設定したバルブの圧が変わってしまうため、強い磁場を避けることが必要です。日常生活で強い磁場が発生する場所やものは多くありません。神経質になることはありませんが、下記のような注意が必要です。

  • 1.使用してはいけません:磁気枕・磁気マットレス・磁気ネックレスなどの磁気治療器
  • 2.影響するので近寄らない:MRI検査室(検査後には圧の再調整が必要)、屋外設置の大型スピーカー
  • 3.バルブ部分を接触させないようにしましょう:磁石、ヘッドホン、ラジオ・テレビ・ステレオ音源としてのスピーカー、冷蔵庫のドア
  • 4.影響ありません:携帯電話の使用、空港のセキュリティゲート通過、高圧線の近く

乳幼児期に入れたシャントでは、身長が伸びると腹腔に入れたカテーテルが徐々に引き上げられ、髄液を吸収する働きのある腹腔内から先端が皮下に移動して、シャントとしての機能を果たさなくなります。子どもの身長はある程度予測できるので、通常は長さが不足する前にカテーテルの延長または入れ替えを行います。実際に入っているカテーテルの長さは、お腹のレントゲン写真から計測できます。最初のシャント手術の時に、お腹に何cmのカテーテルが入ったかを聞いていれば、その後、X cm身長が伸びた場合に、カテーテルは約X/2 cmずつ腹腔から抜け出ているはずです。一般的には30〜50 cmのカテーテルが腹腔に入れられることが多いので、小児の成長期で身長が年に7〜8 cm伸びても、10年近くは大丈夫なはずです。

気圧の変化でシャント機能が影響を受けることを心配される方がいらっしゃいますが、大丈夫です。飛行場での防犯用のセキュリティゲートも、問題なく通過できます。

打撲の程度にもよりますが、日常生活でのちょっとした打撲では、シャントが破損するようなことはありません。ただし圧可変式バルブで、高所から転落して頭を強打したり、バルブ上を固いもので強く打撃した場合などには、設定圧が変化したり、バルブ内の圧を調節する構造が破損することもあるので、念のため診察を受ける方が良いでしょう。

水頭症で内視鏡手術、シャント手術を受けただけならば、予防接種を控える必要はありません。しかし、水頭症になった原因疾患や合併するてんかん症状、また予防接種の種類によっては、接種を控えなければならない場合があります。主治医の先生に相談してください。

学校生活において、水頭症であることを理由に行動を制限する必要はありません。ただし、水頭症となった原因の疾患によっては制約を受ける場合があるので、主治医に相談しましょう。
体育などの運動も、基本的には皆と同じように行うことができます。カテーテルが入っていることで、マット運動での前転や頚の運動、鉄棒でお腹がこすられることなどを心配されるご家族がいますが、問題はありません。サッカーのような球技にも参加できます。ただし、ヘディングのように、あえてバルブが置かれている頭部に直接の打撃が加わる動作はあまりお勧めしません。プールでの水泳も皆と一緒に行うことができ、見学に留める必要はありません。

子どもの精神発達にはかなり個人差があり、水頭症だから知的発達が悪いというわけではありません。しかし、知的発達を言語性IQ、動作性IQに分けて調べると、水頭症では言語性IQが動作性IQに比べ高い傾向があります。つまり、言葉を使ったり聴覚による記憶は良好であるのに対し、視覚による記憶や空間認知が不得手である、といった特徴が見られます。もし、学校での成績や学習に偏りが疑われた場合は、一度、心理発達検査を受けて、知的発達に領域ごとの差が無いかどうか調べることをお勧めします。(→水頭症・二分脊椎必携 第III章1節 知的能力障害、学習障害(LD)とその対策 の項参照)

現在かかっている病院から移る予定の病院に宛てて、これまでの治療経過がわかる紹介状(診療情報提供書)と画像データを作成していただけます。申し出てください。
一方で、受けた治療の内容については本人やご家族がある程度は知っておくことも大切です。水頭症を生じた原因、受けた治療法がシャント治療か内視鏡治療か、シャント治療ならばどこにカテーテルが入っているか、腹腔へは何cmくらいの長さが入っているか、圧を調節するためのバルブやシステムは何を使っているか、こうした点は主治医に確認しておき、いざという時、自分でも伝えられるようにすることが、自分の身体を守るためにも望ましいのです。

2014年6月に改正道路交通法が公布され、「一定の病気等」にかかっている運転者を対象とした新しい免許制度がスタートしました。「一定の病気等」とは、統合失調症、てんかん、再発性の失神、無自覚性の低血糖症、そううつ病、重度の眠気の症状を呈する睡眠障害、認知症、麻薬中毒などを指し、水頭症はその対象ではありません。ただし、水頭症に合併して「てんかん」症状がある患者さんは上記の対象疾患に入りますので、免許取得や更新時に、症状等があるかどうかを判断するための質問票に回答を求められます。服薬の有無にかかわりなく、2年以上発作が無ければ免許は許可されます。「てんかん」と診断されているかどうかで運転の適性か判断されるわけではないので、取得、更新に当たっては主治医と良く相談することをお勧めします。

シャントが閉塞すると、通常は頭痛や嘔吐などの機能不全による症状が表れます。一方、症状なく元気に生活していても、定期検査でシャントの長さが足りなくなっていたり、途中で断裂していたり、シャントが機能していないことが判明するという場合もあります。シャント治療を受けた患者さんの10〜20%では、いつの間にか、シャントが不要になることがあるようです。しかし、あくまでもシャント機能が低下した結果としてわかることであり、不要であるかどうかを前もって判別することは困難です。

水頭症が妊娠、出産に影響することは一般的にはありませんが、妊娠の後期から分娩時にかけては胎児を入れた子宮が大きくなるため、腹腔内の圧が平常時よりも上昇します。V-Pシャントは脳室内と腹腔内の圧の差を利用して髄液を流す仕組みになっているため、シャントカテーテルが腹腔内に入っている場合、妊娠後期から分娩時に腹腔内圧が上がり、髄液の流出が悪くなって頭痛が起こりやすくなることがあります。帝王切開の場合にはカテーテルを避けた皮膚切開が必要であり、産婦人科の医師にあらかじめシャントが入っていることを告げておき、脳神経外科の診療もできる病院での分娩を考慮するのも一つの方法です。

ラテックスは天然ゴムに含まれるタンパク質成分です。このラテックスタンパクに暴露された身体が異物を排除しようと、IgEという抗体を産生して起こすアレルギー反応をラテックスアレルギーと呼びます。天然ゴムに触れた部分の皮膚が赤く腫れたり、痒くなったり、ひどい時はアナフィラキシーショックといって呼吸困難や血圧低下を起こします。ラテックスは、日常生活では輪ゴム、ゴム風船、ゴム手袋、コンドームなどの天然ゴム製品(合成ゴムは大丈夫)に、医療関係では医療用手袋や各種のカテーテルに含まれている可能性があります。従って、こうした天然ゴム製品を頻回に使用する人にラテックスアレルギーは多く発生し、医療従事者とともに、医療的処置を受けることが多い患者さんで要注意とされています。水頭症の患者さんでは、シャントの再建手術回数や医療的処置の回数が多い患者さん、特に二分脊椎を合併した患者さんで発生頻度が高く、ラテックスアレルギーのハイリスクと言われています。歯科医が使用するゴム手袋で治療中にショックを起こした例もあり、最近では、ラテックスを含まないラテックスフリーの製品を採用する医療機関が増えています。日常生活でゴム製品に触れて(輪ゴムを手首に巻く、ゴム風船を膨らませるなど)、皮膚が赤くなったり腫れ上がるようなことがあれば、詳しい検査を受けて天然ゴム製品を避けることが必要です。
バナナやアボガド、キウイ、栗などの果物は天然ゴムと類似した成分を含むことから、ラテックスアレルギーの患者さんは、これらを食べることで蕁麻疹ができたり口の中がかゆくなったり、アレルギー反応を起こすことがあるので併せて注意します。

 

二分脊椎に関するQ&A

二分脊椎にはいろいろな種類の病気が含まれます。病気の程度や治療の方法が異なるため、二分脊椎を開放性と閉鎖性(潜在性)とに分けて考えます。脊髄など中枢神経の一部が本来これを保護する硬膜(こうまく)、脊椎(せきつい)、筋肉・筋膜、皮下組織、皮膚などで覆われずに外に露出されていれば開放性とし、皮膚に脊髄が覆われ外に露出していないものを閉鎖性と言います。このように開放性と閉鎖性は脊髄が外に露出しているかどうかで分類します。開放性では脊髄周囲にある髄液が外に漏れ出しますが、閉鎖性ではこのような漏れはありませんので、この点でも開放性と閉鎖性とは大きな違いがあります。
このように開放性の二分脊椎は脊髄髄膜瘤(脊髄裂、脊髄披裂)を指し、この病気に水頭症は約80%の例に合併します。腰より上の背中の部分(胸椎部)に発生した脊髄髄膜瘤ではより高率に合併するといわれています。一方、閉鎖性(潜在性)の二分脊椎には脊髄脂肪腫、先天性皮膚洞などたくさんの種類の病気がありますが、水頭症はほとんど合併しません。そのため、二分脊椎に伴う水頭症といえば、通常脊髄髄膜瘤に合併した水頭症をさします。なお、脊髄髄膜瘤とよく似た名前の髄膜瘤がありますが、全く異なった病気です。髄膜瘤は閉鎖性(潜在性)二分脊椎に分類され、神経の症状は軽いかもしくは認めず、水頭症を合併することは通常ありません。

まだよく分かっていませんが、次の説が有力です。髄液は脳室の中にある脈絡叢という特殊な構造を持つ血管の集まりの部分で血液から作られますが、一部は脳の中にある液体成分が脳の外側に出れば髄液となります。髄液は主に脳室の中で作られ、脳室を通って脳や脊髄の表面に出たのち、吸収されて血液に戻ります。脊髄髄膜瘤が発生すればこの髄液の主な経路が変わります。脳室から脊髄の中の細い管(脊髄中心管)を通って瘤の部分にも髄液が流れて行き、脊髄中心管が外に開放されていますので、脊髄髄膜瘤が外に露出している部分でそこから髄液が体の外にもれ出ます。脊髄髄膜瘤は妊娠して約1ヵ月後に発生しますので、体外への髄液の流れは生まれるまで何か月も続きます。この髄液の流れの変化が長期にわたって持続するので脳の形を変形させるといわれています。脊髄髄膜瘤に合併する脳幹や小脳が脊髄側(尾側)にずれて変形したものはキアリ2型奇形とよばれます。また、脳幹にある髄液の通り道の中脳水道も変形して詰まらせ、生まれる前から水頭症を発生させることが多いといわれています。これ以外に、脳の強い変形が脳の表面での髄液の動きを悪くさせたり、髄液が十分に吸収されない、なども水頭症の原因と考えられています。

超音波エコー検査でお腹の中の赤ちゃんの脳室が明らかに大きければ水頭症(胎児期水頭症)を疑います。胎児期水頭症の原因として脊髄髄膜瘤が多いため、生まれる前に診断される例が増加しています。しかし、超音波エコー検査で脊髄髄膜瘤と診断できない場合も多く、そのような場合は生まれて初めて診断されます。

お腹の赤ちゃんが脊髄髄膜瘤と診断できれば、出産予定日のずっと前の時期(妊娠25週前後)に、子宮の一部を切ってその中の胎児の脊髄髄膜瘤からの髄液もれを外科的に止め、引き続き妊娠が継続できるように治療をすれば、生まれてきた脊髄髄膜瘤の赤ちゃんの水頭症やキアリ2型奇形の発生率が明らかに下がり、脊髄の障害も少し改善することが証明されました。アメリカやその他の国で行われていますが、早産などの合併症もあるため治療方法の改善が必要とされています。
日本でも脊髄髄膜瘤の胎児期の治療に関しての有効性や問題点を明らかにするため臨床研究が開始されましたが、まだ一般的には行われておりません。現在のところ、出生前に脊髄髄膜瘤と診断できれば、生まれるまでに十分な準備をして生まれてきてから必要な治療を行います。

脊髄髄膜瘤では、髄液が漏れ出しているので細菌感染(髄膜炎)を起こすのを予防したり、露出した脊髄など神経組織を保護するため、生まれて2、3日以内に脊髄を本来の背骨(脊椎 せきつい)の中に戻し、脊髄を硬膜(脊髄を保護し髄液を脊髄周囲に保つ働きを持つ膜)で覆い、さらに筋肉、皮下組織、皮膚などで保護する手術(脊髄髄膜瘤の修復術)を行います。 生まれたときに明らかに水頭症を伴っている例では、この修復術と同時に水頭症の治療(手術)を行います。生まれた時に脳室の拡大はわずかで水頭症とはいえない状況でも、瘤から体外に出ていた髄液が修復術によって外に出ないようになれば、それが脳室にたまり数日してから水頭症が発生したり、悪化することがあります。そのため、修復後数日経過して水頭症が明らかになれば治療する、という例も少なくありません。修復後数か月間は水頭症が悪化する可能性があるといわれています。もし修復術や水頭症の治療を行う前に細菌感染による髄膜炎を起こした場合、修復術を行えば髄膜炎がさらに悪化することから、水頭症の治療のため脳室ドレナージ(脳室に細いカテーテルを挿入し、それを用いて脳室の髄液を体の外に導く)を行って感染した髄液を脳室の外に持続的に出します。同時に、髄膜炎に対しては抗菌薬を点滴で投与します。髄膜炎は軽くても治るまでには2、3 週間かかりますが、それ以上の場合も少なくありません。髄膜炎が治れば修復術を行い、水頭症に対しては後に述べるシャント手術を行います。

水頭症の治療をしなければ、髄液が脳室に貯まって脳室が大きくなって脳の内部から脳を圧迫して大脳の厚みが薄くなり、 発達や神経の働きに新たな問題が発生します。脳の圧迫が強ければ、ミルクののみが悪い、嘔吐する、元気がないなどの症状が出ます。脳室が大きくなるにつれ頭が抱っこできないほど大きくなったり、目の位置が下向きになったり、運動発達や知能の遅れをきたします。また、水頭症を治療しないと、硬膜で覆った脊髄の周囲の髄液が硬膜の縫目からもれやすくなり、それが皮膚の下に溜まり、脊髄髄膜瘤を修復した創から髄液が漏れ、その結果細菌感染が起こることもあります。もし細菌感染が修復した脊髄に及べば、細菌感染は髄液を介してすぐに脳にも及んで脳の発達をさらに障害することがあります。このような理由から、水頭症を治療しておいたほうが明らかに良い結果となります。水頭症の治療にはいろいろ心配な合併症がありますが、水頭症の治療をしないよりは治療を行う方がよい結果が期待できます。

脊髄髄膜瘤では神経組織が露出し髄液が流れ出ているため、抗菌薬を予防的に投与しても細菌感染による髄膜炎が起こりやすい状態です。そのため、細菌感染を起こしやすい人工物はできるだけ体内に埋め込まない方がよいのですが、今のところ特殊なシリコン製の細いチューブを体に埋め込んで、脳室の髄液を腹腔内で腸の外側の広い空間に導く脳室腹腔シャント(シャント、短絡術)の手術を行うのが一般的です。これにより脳室内の髄液を腹腔内で吸収させることができます。最近、抗生物質をカテーテルの材質に加えた特殊なカテーテルが作成され、これを使用すれば細菌感染が起こりにくいという結果が報告されております。シャント以外では、シャントチューブと同じ材質のオンマヤ貯留槽(リザーバー)を埋め込む手術を行って、脳室とつなげた皮下のリザーバーを細い針で刺し、脳室内の髄液を必要な時に繰り返し抜いて水頭症を治療する方法があります。水頭症の治療が長期に必要な場合、これを脳室腹腔シャントに切り替える手術をします。生後 6 カ月までは髄液の吸収が十分ではないので、新生時期に神経内視鏡を用いた第3脳室底開窓術は通常行いません。この方法で治療して水頭症が良くならないと、髄液が創から漏れやすく細菌感染の機会が増加しますし、シャント手術を追加しないといけなくなるからです。1歳を過ぎて第3脳室底開窓術に加え髄液を産生する脈絡叢を焼却する方法は、シャントをしなくても上手くいく例があると報告されていますが、広く認められた方法ではありません。シャントが閉塞するなどシャントをやり直す必要があった時に、年齢が高い例ではこのようなシャント以外の方法を行うことが可能ですが、効果のない例も多いので、 通常はシャントをやり直す治療をすすめることが多いのが現状です。水頭症の治療として髄液の産生を減らすお薬があります。長期に使用すると血液中のナトリウムやカリウムの濃度の変化や腎臓への副作用の問題があり、現在は水頭症の一時的な治療に用いる場合がありますが、シャントの替りになるとは考えられません。

シャントによる髄液の適切な流れという点から説明します。シャントに組み込まれたバルブの圧設定によって髄液の流れを主に調節しますが、一つの設定圧がすべての患者さんでうまくいくとは限らず、一人一人にあわせる必要があることが難しいところです。
従来は圧設定が変更できない圧固定式(低圧、中圧、高圧の三種類)があり、幸いなことに中圧でうまくいくことが多いのです。しかし、流れ不足の例で、頭を高く維持することでシャント内の髄液の流れを促進しても改善しない場合は、バルブを低圧のバルブに入れ替える手術を行います。流れ過ぎに関してですが、脊髄髄膜瘤など生まれて直ぐにシャントした例で、横になって寝ている姿勢から成長して座ったり立って歩き出せば、脳が腹腔よりも高い位置になる時間が長くなり、圧設定がそのままの圧固定式では髄液が流れすぎることがあります。流れ過ぎでは、頭を高くすると頭痛が出て寝て横になると改善するような特徴的な頭痛の発生、側脳室が狭くなって脳室カテーテルが詰まりやすくなる、などの問題があります。これに対し、流れ過ぎ防止の装置をシャントに組み込むことやバルブの入れ替えの手術を行いますが、全例でうまくいくとは言えません。
最近では、皮膚の上から磁石でバルブの圧設定を変更し髄液の流れを調節できる圧可変式のバルブができ、多くは流れすぎ防止の装置が組み込まれています。圧可変式では設定圧を変更して流れが簡単に調節できるのでよく用いられますが、全例でうまくいくとは限りません。また、このバルブは大きいので赤ちゃんでは皮膚を圧迫する、常に強い磁気からバルブを遠ざける、繊細な構造なので破損しやすい、などの問題があります。圧可変式には、強い磁気を用いるMRI後に毎回設定圧の確認が必要なものと、そのような処置は必要ない MRI 対応のものとがあります。なお、CTでは設定圧は変化せず、圧固定式には磁気の問題はありません。
シャントバルブはいろいろな考えに基づいて沢山の種類がありますが、現状で脊髄髄膜瘤に伴う水頭症に一番適したバルブというものはありませんので、各病院で使いなれたものを用いています。シャントバルブの種類と設定圧、可変圧式ならMRI対応かどうかを担当の先生に確認し、緊急時にはすぐ提示できるのが良いでしょう。

生まれたばかりの新生児にシャントを行うのと同じような問題があります。体が小さければ手術自体の合併症(脳、消化管など)や麻酔による合併症などがあります。髄液が大量に腹部(腹腔内)に流れればイレウスという状態が起こります。腸の動きが弱まり、腹部が大きく膨隆する、飲んだミルクを嘔吐するなどの症状となりますので、一時ミルクを中止し点滴で補液をすることで腸を休める処置が必要となります。瘤の修復術やシャントがうまくいったとしても術後数週間は細菌感染に気をつけます。皮膚が薄く創部から細菌感染を起こすことがありますし、脊髄髄膜瘤では、脊髄の働きが悪いため排尿がうまく行えずに膀胱や腎臓などの尿路に発生した細菌感染(尿路感染)が、血液に乗って全身に広がりこれが髄膜炎の原因になることがあります。もし髄膜炎がなかなか治らずに重症化すれば、脳室内に壁が発生して隔離された空間に髄液が貯まってくることがあります。そうなれば、それぞれの空間に脳室カテーテルを挿入する必要があります。このように、複数のカテーテルを埋め込むより複雑なシャントを行った場合は、術後にシャントの閉塞も起こりやすくなります。また、神経内視鏡を用いてそれぞれの髄液の空間を隔てている壁を破って治療する方法もありますが、通常のシャント手術よりも難しくなります。重症の髄膜炎のため敗血症となって細菌感染が全身に及べば生命に危険が及ぶことがあったり、治癒したとしても脳の発達に影響するといわれています。この困った合併症を完全に予防することは難しいのが現状です。なお、細菌やまれにカビ(真菌)による髄膜炎はシャントを抜いて治療を行う必要がありますが、風邪などウィルスの感染はシャントには影響しません。

赤ちゃんの手術ですので小学生などの体の大きなお子さんに比べれば合併症が起こりやすいのは確かです。しかし、うまれたての時期に必要な治療を行わなかった場合は、「Q6. 水頭症の治療をしないとどうなりますか?」に記載したように、もっと困った状態になり、重い合併症が起こりやすくなります。必要な治療を適切な時期に受ければお子さんが元気になる可能性が高くなるといえます。ご家族にとっては初めてのことで分からないことがたくさんあり不安でしかたがないでしょうが、治療する側はご家族を支援していこうと考えています。不安なことやわからないことがあれば、ちょっとしたことでもいいですから、看護師、医師など治療にかかわっているものにお話ください。

他の水頭症と同じようなシャント合併症があります。脊髄髄膜瘤に伴った水頭症に対するシャントでは、術後の細菌感染、シャントの閉塞の頻度が多いと言われています。シャント術後1か月以内にシャント閉塞の症状が出現しシャント手術をやり直すこともありますので、1歳を過ぎるまでシャント手術のやり直しがあることを十分予想しておかないといけません。膀胱や腎盂腎炎などの尿路感染を繰り返し、その時に血液に入った細菌によってシャント感染することもあります。また、腹膜炎からシャントに感染することがあります。腸の回りの細菌感染は腹膜炎と呼ばれ、その中で良く知られているのは盲腸(虫垂炎)です。腹腔内の中にはシャントもはいっていますので、腹膜炎になればすぐにシャントに感染が及び、脳に髄膜炎や脳室炎が発生します。原因は何であってもシャント感染は髄膜炎に発展し、さらに脳室炎は治りにくく脳の機能を低下させる重篤な合併症です。
シャントが閉塞したり感染した時の症状は他の原因の水頭症と同じです。シャントの閉塞の症状は、キアリ2型奇形の症状がシャントの閉塞による症状とよく似ている場合がありますので、どちらの症状かを見極める必要があります。シャントが閉塞すれば、まず元気がない、活気がない、食欲がない、など、風邪などもひいていないのにいつもと違う様子とご家族の方が気づくことが多いのです。また、嘔気、嘔吐があり、年少児では頭痛を訴えます。寝不足ではないのにすぐ寝てしまうなどの軽いですが意識障害が見られ、さらに悪化すれば、ぐったりして目をあけずに呼びかけても返事をしなくなったり、痙攣を起こします。このようになれば直ちに病院に行って治療を開始しないと生命にかかわります。このような頭の中の髄液がたまって脳を圧迫する症状(頭蓋内圧亢進症状)は数時間で来る場合と、何日もかかって徐々に悪化する場合とがあります。シャントによる治療を行って脳室が正常か正常より小さい例では、シャントが閉塞すると急に悪化することが多いとされています。
退院してから電話でお子さんの状態を医師に相談する場合、治療する側としては、ご家族の情報のみでは判断できないことが多いので、診察を受けるのがよいと思います。病院にいこうかどうか迷ってしまって不安な夜を過ごすよりは、シャントの問題が疑われる症状に気づけば夜遅くなる前に早く病院を受診すると決断された方がよいでしょう。

脊髄髄膜瘤の例の中では、成長とともに髄液が脳や脊髄の部分で十分に吸収できるようになり、知らない間にシャントが不要になる例が確かにあります。しかし、このような例は多くはないので、成長してシャントが不要になると期待しすぎないほうがよいでしょう。
どうしてもシャントを抜きたいという場合は、成長してから内視鏡を用いた第3脳室底開窓術と同時に脳室ドレナージを行って、少しずつドレナージの流出口の高さをあげて脳や脊髄の部分で髄液を吸収できるようにしてシャントからの離脱を試みる方法があります。どのような例でシャントがうまく抜けるかなど予測できない点やこの処置による細菌感染や合併症の説明をお聞きになって、この方法を選択するかどうかお決めになるのがよいと思います。この程度の合併症ならシャントを抜いてもらう方がよいと思われるかどうかの判断は個々の患者さんに委ねられますので、十分に担当の医師とご相談ください。

脊髄の働きが十分ではないため排尿の問題(神経因性膀胱)に対して泌尿器科で消化管を使って尿路を変更する手術をする場合、胃腸の病気の治療に腸管を開いて手術をする場合などは、お腹(腹腔)に入れたシャントのカテーテルに腸管からの細菌が感染し、それから髄膜炎に移行する可能性があります。このような場合には、感染予防のためお腹からカテーテルを抜いて一時的に避難させます。この期間が短ければ、シャントのお腹側のカテーテルを体の外に導いて脳室ドレナージを行い、腹腔の感染が起こらない時期になれば腹腔に埋め込み治す方法があります。数か月以上の長期の避難が必要な場合は、髄液を流す場所を心臓内にする脳室心房シャント術に切り替える手術を検討します。水頭症に対しシャントをしているが、口から十分に食べられないため胃ろうの手術(お腹と胃を少し切って皮膚の上から直接チューブを胃の中に挿入する手術で、このチューブで注入食を直接胃に入れることができます)を内視鏡を使って行う場合、最近ではお腹のカテーテルはそのままにして胃ろうの手術を行うことが多いようです。
脳神経外科以外の科で手術を受ける場合は、脊髄髄膜瘤に伴う水頭症のシャントをしていることを担当の先生に前もって必ずお伝えして、ご相談ください。

水頭症を伴った例の集団と伴ってない例の集団とを比べますと、水頭症を伴っていない例の集団の方が知能の発達は良かったとする報告がたくさんあります。特に水頭症により脳室が非常に大きく脳の厚みが1cm以下になれば、知能の発達に悪い影響が出るといわれています。しかし、これらの結果は集団として比較しているので、個々のお子さんの知能発達を正確に予想することは困難といえます。お子さんの発達が滞ってしまう原因としてシャント閉塞がありますので、発達が伸びなやんでいれば主治医に相談してください。治療がうまくいっていても他のお子さんと比べて発達が遅れることがありますので、診察したり調べても遅れている明らかな原因がないようでしたら、いらいらせずにお子さんの発達を見守ってあげてください。

シャントに関する注意点は他の水頭症の例と同じです。脊髄髄膜瘤の水頭症では側脳室の後ろの部分(後角)が大きい例が多く、これにより視覚に関係した後頭葉の働きが十分ではなく、図形に関する判断が苦手であったりします。また、ゆっくり話さないと理解しにくいこともあります。このような特徴に配慮し、患者本人の能力に合わせた学習を行うようにします。また、脊髄髄膜瘤では脊髄の働きが悪いため、膀胱炎などの尿路感染が発生しやすく、足の装具や車椅子で常に圧迫される足やお尻の皮膚に褥瘡(じょくそう)が発生することがあります。これらに細菌感染が発生し、細菌が血液中に入って髄膜炎や腹膜炎を起すことがあります。脊髄髄膜瘤によって感覚が鈍いために本人は皮膚の褥瘡による痛みや皮膚の異常に気がつきませんので、お風呂に入ったときなどに観察してあげてください。重症で動けない、知的な問題があるお子さんは特にこのような日々の観察が大きな合併症を避けるためには必要になります。成長すれば、直接本人が見えないところは鏡を使って皮膚の状態を観察するなど自分でできるように教えてあげてください。お子さんが成長すれば、可能な範囲で自分の病気を自分で管理できることで少しでも自立できるように、保護者の方に指導していただくようにお願いしております。

 

脊椎変形の治療に関するQ&A

脊柱変形が進行すると座位が不安定になり、体を支えるために片手がふさがることになります。したがって両手で行なう食事や勉強、車いすをこぐといったことがしにくくなり日常生活に支障が生じます。後弯がひどいときには褥瘡(図‐3)ができることもあります。褥瘡は、体液を損失しますので非常に体力が消耗します。お年寄りなどでは、褥瘡が原因で亡くなられることがあるくらいです。褥瘡からばい菌が入って脊椎に感染(化膿性脊椎炎)が起こることもあります。したがって褥瘡は必ず治さなくてはなりません。また曲がった背骨と胸郭(あばら骨)とで肺が挟まったり、腰の曲がりが強いために胃や腸が行き場を失い横隔膜を突き上げることで横隔膜の動きが悪くなり呼吸障害が起こります。特に二分脊椎のような神経や筋肉の病気の人が側弯や後弯になると呼吸障害が出やすいと言われており、側弯や後弯がひどくない患者さんと比較して明らかに寿命が短くなるという報告があります。(表‐1)

側弯や後弯などの脊柱変形に対し有効と言われているのは装具だけです。
ただ曲がった背骨を矯正するほどの力はなく、せいぜい進行防止程度です。
しかもこれは側弯症の中で最も多い思春期特発性側弯症で確かめられたことで、二分脊椎の側弯に対して装具の有効性は確認されていません(図‐4)。最近ではDynamic Spinal Brace(愛称プレーリー君)(図‐5)などがよく用いられています。DSBに関してはその有効性につき研究が進められていますが現時点では定かではありません。ただ座位保持装置としての効果はあるようです。
大きく曲がってしまった背骨を治すには手術しかありません。

簡単に言うと背骨に金属(チタン、チタン合金)性のネジを入れ、背骨の一部を撮ったり削ったりして曲がりを矯正し、骨で固めてしまう手術です。なぜ骨で固めるかというと金属で矯正を維持できるのはせいぜい1〜2年で、それ以上たつと金属疲労でネジが折れたり、ゆるんだりするからです。骨が固まるのに約1年間かかるので手術をして1年経って骨が固まって初めて治療終了ということになります(図‐6、7)。手術後1年までは、何らかの外固定(ギプス、コルセット)を行なうことが多いです。ただ術後1年間も入院する必要はなく、通常術後2〜3週で退院されます(図‐8)。

 

排便の管理に関するQ&A

排便管理の対処法を見いだす観点から、排便のプロセスを12の要素に分けました(表)。小腸と大腸は食べ物を消化吸収しながら便をつくり、便を約1日がかりで下行結腸へ運びます。この過程に時間がかかりすぎると水分が過剰に吸収されて硬い便塊になります。腸炎などで早すぎると水分が吸収されないで水様の下痢便となります。食事をとって胃が拡張すると、大腸に大きな蠕動を起こす反射が出現します。通常はこの大きな蠕動で下行結腸やS状結腸内の便塊が直腸へ移動することで便意(便を出したい感覚)を感じます。食後に便意を感じやすい理由です。直腸の便塊が肛門に接近するとますます便意が強くなり、内肛門括約筋という肛門管の壁内の平滑筋が反射的に弛緩し、便が排出されやすくなります。この状態でいきめば(腹圧をかければ)、便がニュルニュルとでてきます。表の右半分はこの排便のプロセスに対する対策を記したものです。

  • 1.直腸・肛門のはたらきを調節する神経の障害
    直腸壁の進展刺激や直腸の蠕動覚は、脊髄内を上昇する感覚神経によって大脳に伝わり、便意として感じます。二分脊椎症では、第2~4仙骨のレベルで脊髄神経の障害があり、膀胱・直腸の障害が出現します。この部位の感覚神経路の障害のため、ふつうに起こる便意(便を出したい感覚)は感じられません。このため便は溜まり気味になりコロコロ便が充満するタイプの便秘となります。しかし、直腸の蠕動時の痛覚は自律神経を通じて感じることができますので、直腸内への50%グリセリンによる刺激で蠕動を誘発すれば痛みを感じますので便意として利用できます。
    肛門括約筋群(肛門挙筋、muscle complex括約筋群、外肛門筋括約筋)を支配する運動神経にも障害があるため、括約筋を自分の意志で(随意的に)収縮させて肛門管を閉じたり(便もれを防ぐ)、逆に括約筋を自分の意志で弛緩させて肛門管を緩めたりができません。そのことが理由で気がつかずに体動時に便が出てしまうタイプの便失禁が起こります。
  • 2.肛門周囲の皮膚の感覚の低下または欠失
    大脳へ向かって感覚を伝える神経路の障害により、肛門周囲の皮膚の知覚を感じることができません。そのために、便がもれて皮膚に付着しても感じません。つまり、皮膚の感覚だけでは便が漏れていることに気づきません。
  • 3.いきみ不足
    二分脊椎症で障害の部位が腰椎以上に高いと、腹筋群や背筋群の調節に障害をおこし、姿勢の保持が十分にできません。そのために、思い通りに腹圧を上昇させることができず、上手にいきむことができません。排便時のいきみ不足は便を排出する原動力不足となり、直腸を空虚にすることができません。したがって、肛門のすぐ近くに便が残ってしまい、予期しない体動による腹圧上昇で便が出てしまう(便もれ)ことになります。

  • 1.便秘:硬いコロコロ便の貯留と便の排出の障害
    脊髄髄膜瘤が高位であるほど、腸管の蠕動運動も障害されて硬便が貯留しやすくなります。結腸の分節運動により丸い兎糞状の便塊(コロコロ便)が左側の結腸に充満することが多いです。便意を感じないでため込んでしまいます。
  • 2.便失禁:体動時(腹圧上昇時)の予期しない便漏れ
    肛門近傍の直腸内に硬便が充満すれば、体動時に腹圧が高まり、かつ外肛門括約筋群は収縮しないため、ひとかたまりの便が排出されてしまいます。この際には便意もなく、便が皮膚に付着する感覚もないことから、患児は便漏れに気付くことはできません。
  • 3.間隔をおいた大量下痢便・泥状便の排出:鬱滞性腸炎の発生
    直腸やS状結腸に停滞している硬便を十分に排出できないままで食事を続けていると、より口側の結腸で鬱滞性の腸炎が発生して、突然に大量の泥状便が排出される事態となります。およそ2週間毎の頻度で泥状便を大量に排出するというのは、便秘に対して適切に対処できていない二分脊椎患児の典型的なエピソ-ドといえます。計画的な排便で防止できる病態です。

定期的に大腸(とくに直腸)を空虚にするというのが二分脊椎症患児の排便管理の第1の原則です。直腸が空虚になってそこに便がなければ、体動時にも便は漏れません。ない便は漏れないわけです。ストッパーを使用したグリセリン浣腸などで強制的に定期的に排便して、直腸内の便をできるだけ完全に排出することをめざします。原則の第2は硬すぎず、やわらかすぎない有形便を維持することです。腸管の蠕動が十分でない時には兎糞状の硬便が形成されます。大きな硬い便塊が形成されて直腸に貯留すれば、浣腸の刺激で出にくくなります。つよい蠕動が誘発された時には吐き気や強い腹痛をきたす原因となります。マグネシウム塩類剤などの単純な塩類下剤を適当量使用して、便が硬くなりすぎないように調節します。3つ目の原則は日常正確のなかで適当な全身運動を日課にして小腸・大腸の蠕動を促進させることを心がけます。
どのタイプの排便方法を選択しても、腹圧を上手にかけることは重要です。姿勢を保持できる場合には、いきみ方は発育発達とともに上達します。横隔膜、腹筋や背筋群を緊張させることを練習します。上手にいきむことは浣腸法で排便する基本となりますし、洗腸法でも直腸内を空虚にするのに重要です。障害レベルが腰椎以上の高位で腹筋や背筋群の運動に障害が及ぶ場合は、姿勢保持もいきむことも上手にできません。このような場合には、姿勢保持の装具を工夫しつつ、用手圧迫や腹部マッサ-ジと摘便と強制排便法を併用して定期的に便を排出させるのが原則です。

  • 1.自然肛門からの浣腸法
    日本ではグリセリン浣腸が頻用されています。50%グリセリン液は直腸粘膜に高浸透圧刺激を与えます。同時に、ある量が急速に注入されたことによる伸展刺激を直腸壁に与えます。注入量(1ml/kgを基準)と注入速度(5~10秒での注入を基本)を変えることで、直腸への刺激の強さを容易に調節することができます。どの年齢層にも使用しやすいことから、乳児期から安全に長期間継続して実施できます。家庭で実施できますし、本人が自分で実施できことをめざせます。長期連用による悪影響はみられません。ただし、直腸内にびらんなどの粘膜損傷がある場合には溶血反応を引き起こすため、この間の使用は避けます。
    二分脊椎症患児では肛門括約筋が弛緩して注入した浣腸液が漏れやすいため、シリコン製のストッパ-(円錐状で最大径は約6.5㎝、特製品として3500円で市販されている)を使用します。肛門ちかくの直腸をなるだけ空っぽにするのが目標なので毎日実施するのが合理的と考えられます。しかし、反応の状況によっては1日おき、あるいは2日おきに実施するのも現実的な選択となります。小学校の低学年になれば自分で自分の浣腸がひとりでできように、浣腸操作を、段階をふんで、意識づけて練習してゆきます。浣腸液の注入後に感じる蠕動痛をきっかけにして、上手に能率よくいきんで排便できるようになると、直腸を完全に空虚にすることができます。やがて、次の排便までの間の不意の便漏れがほぼ消失させることができるようになります。必要に応じて介護者が腹圧を上げる腹部マッサ-ジを追加してあげるのは、便の排出に有効です。
    参考1:自然肛門からの座薬法
    浣腸液ではなく、直腸刺激性の座薬を直腸に挿入することで排便のための刺激を得る方法があります。粘膜を直接に刺激する効果や、炭酸ガスを発生して容量負荷を与える効果のある座剤を用います。手技は手軽ですが、効果そのものが不確実なので二分脊椎症患児の排便には応用しにくいと考えられます。いったん浣腸法で反応便を出せるようになれば、浣腸の補助法として試みることができます。いきむことの重要さは同様です。
    参考2:軟下剤
    ほとんど吸収されないマグネシウム塩類剤(硫酸マグネシウム、酸化マグネシウム、炭酸マグネシウムなど)を服用すれば、これらの塩(エン)が便中に留まり、便の水分量が増えて硬便を防げます。すでに出来上がった硬便を軟化させる作用はありません。
  • 2.自然肛門からの洗腸法(大腸全体の空虚化)
    自分でいきんで直腸内を空虚にして、便失禁を減少させることができない場合には、大腸全体に温湯を注入して、便を温湯に溶かして排出する洗腸法を選びます。肛門にストッパ-をあてがって、人肌程度に温めた水道水(10~30ml/kg程度の量)を、約50㎝水柱の圧をかけて、10分以上の時間をかけて大腸全体に注入し、充満させます。大腸全体の便を泥状に溶かすように5分ほど貯留させたのち、肛門のストッパ-をはずしていきむことで、便を含んだ温湯を一気に排出させます。その後は泥状になった便汁が間欠的な蠕動にあわせて30分ほど排出します。5分程度の休憩のあと、最後に直腸にとどまっている泥状便を強い腹圧をかけて排出することでほぼ完全な直腸の空虚化を達成します。この仕上げのいきみによる排出が不十分であれば、洗腸直後に直腸に残っている泥状便の漏れてしまうので注意がいります。
    洗腸法でうまく管理するためには、大腸の充満感など自分の内部の感覚を表現できるようになっていることと、自立意欲があることが必要なので、通常は7~8歳ごろ(早くて5歳頃から)から洗腸法を体験させます。乳幼児期に浣腸でいきみ上手になっているとスムースに洗腸に移行できます。最初から患児自身ができる操作は進んで患児本人にしてもらうことで早期から意識して自立の方向をめざします。
  • 3.盲腸からの順行性禁制浣腸(または洗腸)法(Antegrade Continence Enema, ACEまたは開発者のMaloneを追加してMACEと略される)
    • ①腹壁からの浣腸路・洗腸路の必要性
      通常、自分の肛門を自分で直視することはできません。直視できない肛門からの操作は一般に難しい。いっぽう、腹壁に浣腸路・洗腸路があれば、直視できて両手での操作がしやすくなります。盲腸から注入すれば、浣腸液や洗腸液は蠕動運動と同じ肛門へ向かう方向に注入されることになり、広範囲の大腸の内容をいっきに排出できることになります。これらがACE法の最大の利点です。下半身麻痺や姿勢保持ができない患児や、あるいは両手の細かな作業が苦手な患児では自然肛門からの浣腸や洗腸を自分で実施することは極めて困難です。ACE法では自分で全手技を実施できますので排便の自立を会得しやすくなります。順行性(腸蠕動の向きに合わせている)のため、一気に効率よく便が排出されて、排便に要する時間も短縮されます。
    • ②ACE法の注意点
      大腸の蠕動運動に異常があれば、盲腸からの浣腸液・洗腸液が停滞するため、この方法は不適当な場合があります。侵襲のある手術を受けて浣腸路・洗腸路を確立しても、本人に排便自立の意欲がなく、浣腸路を適切に使用して管理をしなければ、浣腸路は早々に狭窄と閉塞が起こり使用不可能となってしまいます。自然肛門からの洗腸法で有効であることを確認しておくのも重要です。洗腸法の場合と同様に上手にいきむことができなければ最終的には直腸内を空虚にできず、便漏れが残ることにもなります。(つめる)作製した浣腸・洗腸路はスト-マの一種であり、適切なスト-マ管理を必要とします。皮膚粘膜縫合部は放置すれば狭窄をきたしますし、粗暴なカテ-テル挿入で内腔の粘膜を損傷すれば内腔の閉鎖をきたします。その結果、浣腸用・洗腸用のカテ-テルの挿入が不可能となってしまいます。そのおそれがある場合には、浣腸・洗腸を実施する時だけでなく夜間の睡眠時にもカテ-テルを留置し続けることで、狭窄や閉塞を防止することになります。スト-マからの少量の便汁や粘液の漏れに対する対策も必要です。
    • ③手術
      もともとは逆流防止機能の再建に習熟している小児泌尿器科医師によって開発されました。日本では小児泌尿器科医、小児外科医、外科医が担当します。発達した虫垂があれば、禁制を付加した虫垂スト-マを臍部や右下腹部に作製します(MACE)。虫垂がない場合には、盲腸壁を利用して虫垂様の禁制のカテ-テル導入路を作製します。成人では注入用ポ-ト(胃瘻用を応用)を漏れがないように3重のたばこ縫合を付加して盲腸に留置する方法が試みられています。
  • 4.摘便法
    肛門から手指を挿入して、直腸内の便塊を掻きだして排出方法です。介助者にしてもらう場合と自分で実施する場合があります。介助者に摘便してもらう方法は浣腸法や洗腸法による排便を容易にするための補助手段と位置づけます。手先が器用で、自分で摘便できる場合には、摘便法は自立できる排便法のひとつという位置づけができます。
  • 5.ストーマ法
    自分で処置しやすい腹壁部に結腸人工肛門を作成して、スト-マケアを行うという排便法を選択できます。

浣腸をきっかけにいきんで便をまとめて出すことを幼児期から体験すれば、便秘と便失禁が軽減されます。幼児期から浣腸ごとにいきむ練習をすることで、排便に有用ないきみ方を早く獲得できるようになります。浣腸法でいきみ方が上手になり、便失禁が消失すれば集団生活が快適になります。8割の学童はふつうパンツを着用して、少量の便もれ・尿もれ対策パッドを追加することで対処可能となります。洗腸法の導入後は、洗腸法でのいきみにすぐに役立ちます。浣腸法は座剤挿入や綿棒による肛門刺激より、安全で調節性が高く、効果が確実で長期間の使用ができます。

当面の目標は社会生活時間帯での便失禁を的確に防止する排便方法を身につけることす。次の目標は排便の自立です。つまり自分ひとりで、適切な方法・時・場所を選んで、便を排出できるようになることです。排便の自律(正常に便意を知覚して、自分でいきんで便を排出する)を目標とすることはできません。浣腸をきっかけに直腸の大蠕動を誘発して、いきんで便を排出するという浣腸法でも、大腸全体の便を温水で溶かして排出する洗腸法でも、その手技を自分ひとりでできるようになることを到達目標とします。乳児期から強制排便法を実施して工夫をこらせば、8割程度の人で便漏れがほとんどない状態になります。浣腸療法で便失禁がコントロ-ルできない場合には、自我意識の発達に応じて洗腸療法や盲腸からの順行性浣腸法に移行します。適切な方法を選んで、根気よく試行すれば、多くの患児で便漏れがほとんどない状態になれます。

排泄外来では1回あたり20~30分の時間をかけて排便状況を問診し、不具合の原因分析とその対策をその都度検討していきます。基本資料として毎日の排便状況を記録した排便日誌(図)はとても重要な情報です。排泄はつねにデリケ-トな問題であり、患児やご家族のプライバシ-が保たれるように配慮されます。浣腸法や洗腸法を最初に体験する時には、別枠で、ひとり1時間以上の時間を確保して、皮膚排泄認定看護師による実技指導を受けることができます。やや広い診察室で、患児本人とご家族といっしょに話を聞いていただきます。いったん安定した排便法を獲得しても、患児の発育状況あるいは社会的な状況にあわせて状況がかわっていきます。生活の範囲も拡大していきます。たとえば学校のプ-ル授業や宿泊行事にどのように対処していくかなど、具体的な検討を重ねていくことが必要です。多彩な問題点に対して、多彩な専門家がかかわっていくチ-ム連携医療を作り上げる場となっていきます。